1.今回の事情について

2025年8月20日、東京サイエンスクリニック(旧:ティーエスクリニック)において、慢性疼痛に対する自己脂肪由来間葉系幹細胞治療を受けていた女性患者が、細胞点滴の投与中に急変し、搬送先の病院にて死亡が確認される事案が発生しました。
この疾病報告は8月27日に厚生労働省へ提出され、当該治療に使用された特定細胞加工物はコージンバイオ株式会社 埼玉細胞加工センターで製造されたものであることが明らかとなっています。

厚労省は既に医療機関と加工施設双方に対して、再生医療等安全性確保法(平成25年法律第85号)に基づく命令を発出しました。

2.緊急停止命令についての法的解釈

今回発出された措置は以下の条項に基づいています。

  • 法第22条(提供の一時停止緊急命令等)
    再生医療等を提供する病院又は診療所の管理者に対し、当該再生医療等の提供を一時停止することを命ずることができる。
  • 法第47条(製造の一時停止緊急命令等)
    特定細胞加工物の製造をする者に対し、当該特定細胞加工物の製造を一時停止することを命ずることができる。

この規定は、原因が未確定であっても、患者の健康被害が発生し、類似の疾病が発生するおそれがある場合に「予防的に」発動される措置であり、医療機関側・製造施設側双方に厳格な対応義務が生じます。

今回の緊急命令は、提供中の死亡事案に基づく初の適用であり、これまでの無届事案や感染症事案と比較しても、その社会的影響は極めて重大です。

3.今後の影響と留意点

本件を受け、提供計画の作成・管理に関わる立場として以下の影響を想定しています。

  1. 審査基準の厳格化
    • 厚労省・再生医療等委員会による提供計画の審査において、安全性根拠・品質保証・リスク管理体制・原因究明手順の記載要求が一層強化される可能性があります。
    • 曖昧なリスク評価や不十分な品質管理の記載は、認可取得や継続審査において不利に作用することが予想されます。
  2. 監視体制の強化
    • 細胞加工施設に対しては、製造記録や品質試験結果をオンラインで厚労省が随時閲覧可能とする体制が求められる可能性があります。
    • 医療機関に対しては、患者カルテや副作用発生状況を電子化し、厚労省や第三者機関にリアルタイムで報告・監視できる仕組みが検討される可能性があります。
  3. 業界全体の信頼性への影響
    • 今回事案は「再生医療そのものが危険である」という誤解を社会に広げるリスクがあります。
    • そのため、今後は各提供機関・加工施設が患者説明責任と透明性の強化を行い、信頼回復に努めることが不可欠です。

今回の緊急命令は、提供計画作成・管理において安全性を最優先とすべきことを改めて示す重大な事案です。
提供計画管理部としては、今後も各医療機関・細胞加工施設に対し、法令遵守・科学的根拠・品質保証を徹底的に担保した提供計画の作成支援を行ってまいります。

 

株式会社ASメディカルサポート
提供計画サポート部